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無花果少年と瓜売小僧32

时间: 2020-01-31    进入日语论坛
核心提示:  32 木川田くんのお父さんは、ずい分早い時期にお父さんをなくしていました。戦後の混乱期で食糧難で、木川田くんのお父さん
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 木川田くんのお父さんは、ずい分早い時期にお父さんをなくしていました。戦後の混乱期で食糧難で、木川田くんのお父さんのお父さんは結核でした。だから、木川田くんのお父さんには、お父さんにやさしくされた記憶なんてないのです。あるのかもしれませんが、それはズーッとズーッと前のことで、無理して思い出せば思い出せるかもしれないというようなそんな思い出です。でも、そんな思い出し方が出来たとしても、そういう記憶はその後の�大変さ�にすぐケシ飛んでしまいます。
戦争があって大変で、でもそれは大変でしたけれども、日本中がおんなじように大変なことでしたからまだよかったというようなものです。
戦争が終って大変で、そしてその大変さがもう少ししたら落着くかなァという頃に、木川田くんのお父さんのお父さんは結核になってしまいました。その頃の結核は今のガンとおんなじで、ほとんど不治の病いのようなものでした。不治の病いで、そしてドンドンお金を吸いこんで行くぐらいに贅沢《ぜいたく》な病気でした。日本中はまだ貧乏でしたけれども、それでも、木川田くんのお父さんの家はまだ更に貧乏になりました。
木川田くんのお父さんは中学生で、お兄さんと妹がいましたが、みんなで一緒になって働きました。さんざっぱら家の中を貧乏にして、木川田くんのお父さんのお父さんが死んだのは、それから一年後です。だから、木川田くんのお父さんにとって、�お父さん�というものは、いつも寝巻を着てゴホゴホやっている人という、それだけでした。
�お父さん�のことを思うとそれはそれだけで、その�お父さん�のことを自分が好きなのか尊敬しているのか、それとも恨んでいるのか、木川田くんのお父さんには分らなくなります——というよりももっと正確に言います——よく分らないのです。寝巻でゴホゴホやっていた�お父さん�のことを思い出すと「大変だったなァ」ということしか、木川田くんのお父さんには思い出すことが出来ないのです。
お母さんも大変でしたがお兄さんも大変でした。この二人が歯を喰いしばって働いていたから、木川田くんのお父さんも歯を喰いしばって頑張りました。木川田くんのお父さんにとっては、この�お兄さん�の方がお父さんよりも�お父さん�でした。ちょっとでもズルけたことを言うと、すぐ怒鳴ります。
怒鳴られて「なんでェ」なんてことを思ったりもしましたが、でもそのお兄さんは一家の為に一生懸命働いているのです。お母さんも、木川田くんのお父さんとお兄さんが喧嘩をすると悲しそうな顔をしました。
木川田くんのお父さんのお母さんは、そういう喧嘩の時になると木川田くんのお父さんの方ではなくて、お兄さんの方の肩を持つのが当然ですが——「だって、源一郎はお前達の為に働いてくれてるんじゃないか」と、木川田くんのお父さんのお母さんはよく言いました——でも、そう言っても、木川田くんのお父さんのお母さんは、やっぱり、木川田くんのお父さんのことだって分ってくれました。申し遅れましたが、木川田くんのお父さんの名前は�源次郎�で、木川田くんの名前の�源一�は、このお兄さんの名前の�源一郎�からもらったのです。
やっぱり、木川田くんのお父さんは�お兄さん�のことを尊敬していたのです。尊敬していなくちゃいけないと思っていたのです。そして、木川田くんのお父さんは、木川田くんにも自分の苦労を分ってもらいたいと思っていました。
思っていましたが、やっぱり木川田くんはそんなことを分ってはくれませんでした。
 木川田くんが生まれた時、木川田くんのお父さんはいつかこいつもきっと俺の苦労を分ってくれるぞと思っていました。思っていましたが、それで「よーし頑張るぞ」と思うほど、木川田くんのお父さんは軟弱な人ではありませんでした。
木川田くんのお父さんが「よーし頑張るぞ」と思ったのは結婚した時で、それからはズーッと頑張っていたのです。今更頑張りようがありません。
結婚して頑張って子供が生まれて、東京に転勤になって「負けないぞ」と思ってズーッと頑張っていたので、木川田くんのお父さんは木川田くんが生まれたって、別に頑張りようがありませんでした。
気がつくと木川田くんは妙に気弱な子になっていて、お母さんのエプロンの端をつかまえて、東京の二間しかないアパートの台所の隅に立っていたりしました。
 木川田くんのお母さんは、木川田くんのことを「心のやさしい子」という風に言っていましたが、でも、木川田くんのお父さんにはそれが気に入りませんでした。自分には見せたこともないようなやさしい顔をして、自分の奥さんがそんな風に言うのが気に入らなかったのです。
木川田くんのお父さんは、それで御多分に洩れず�女の人�を作りましたが、それは忙しく外を飛び歩いている自分の為の�補給基地�で、男の�本拠地�はあくまでも家庭にあると思っていましたので、それがバレたり揉《も》めたりするようなことにはなりませんでした。
なにしろ、木川田くんのお父さんは東京出張所の�若手�の中で一番最初に家を建てた人なのですから、つまらないことに脚を取られるということなどはなかったのです。
「息子だって分ってくれる」と、木川田くんのお父さんは思っていました。
 六畳二間のアパートで、木川田くんは、知り合いのない東京生活を心細がっているお母さんのよき慰め相手になっていました。お父さんは忙しいし、知り合いはあんまりいないし、お母さんはとっても心細かったのです。
お父さんが帰って来るまで、木川田くんはお母さんの手伝いをしました。「今日はお父さん、何時ぐらいに帰って来るかなァ」とか言って、台所でお母さんの手伝いをしていると木川田くんは、「お父さん遅くなって、御飯終っちゃったぐらいの頃に帰って来るといいなァ」と、いつの間にかに、思うようになっていました。
 だって、いつもイライラカリカリしているお父さんは、木川田くんには馴染めなくて、なんとなくこわかったからです。
木川田くんのお父さんは、いつも「勉強してるか?」と言いました。木川田くんは勿論勉強をしていましたから「うん」と言っていましたが、「でもどうしていつも分りきったことばっかり言うんだろう」って、そうも思っていました。せっかくおとなしく勉強していても、お父さんが帰って来ると、なんとなくせわしくなって、家の中が勉強する雰囲気ではなくなって来るからです。
「勉強してるか?」って言われると突然勉強する気がなくなって来る、そう木川田くんが思うようになったのは、小学校も五年の終りに近い頃でした。
「こいつももう中学なんだからチャンとさせないとな」と木川田くんのお父さんが思っていたのは当然といえば当然のことですが。
 木川田くんがおかしくなったのは小学校三年の夏でした。
暑い夏の夜で、木川田くんは窓を開けたままで奥の部屋で寝ていました。出口に近い方の部屋ではお父さんとお母さんが寝ていて、境の襖《ふすま》は開いていました。真夜中だと思いましたが、それは木川田くんが「真夜中だ」と思っただけで、そんな遅い時間ではなかったのかもしれません。
寝苦しくなった木川田くんがフッと目を覚ますとどこかからヘンな声が聞こえて来ました。なんだかよく分らない声で、まるで犬が歯ぎしりをしているような声でした。
なんだか知らないけど�ドッ�と汗が出て来るような気がしました。
ハッと気がついたら、襖の向うにヘンなものが見えるのです。よく分らないのでジーッと木川田くんは見ていました。ジーッと見てしまったらなんだか疲れたので、木川田くんはそのまんま寝てしまいました。
次の日、夏休みの水泳教室に学校へ行って、木川田くんは唐突に、昨日見たものを思い出しました。
泳げなくて、ちょっとプールの中に入ったら「やだなァ……」と思ってプールサイドに坐っていたのですが、同じクラスの男の子がプールの中に勢いよく飛びこんだ時にそれを思いました。
それは、�お父さんの脚�でした。汗をかいたみたいにヌルヌル光って、そして、その先によく分らないものがありました。プールサイドをドタドタ走って行く裸の男の子達を見て、「そうだ、お父さんパンツを穿《は》いてなかった」と、木川田くんは思いました。
お父さんとは時々、お父さんが休みの日にお風呂に連れて行ってもらいましたから、勿論木川田くんだってパンツを穿いてないお父さんのことは知っていました。知っていましたけど、今、プールサイドの木川田くんの頭の中にある�パンツを穿いてないお父さん�は、お風呂屋さんで痛いぐらいにゴシゴシ頭を洗うお父さんではありませんでした。
「どうしたんだろう?」と思っている木川田くんの頭を、その時担任の女の先生がつかまえました。
「こら、どうして泳がないの?」——担任の�根岸先生�はちょっと怒って、ニコニコしながらプールサイドの木川田くんに言いました。
�根岸先生�は紺の、胸のところに赤い縁のついた水着を着ていて、木川田くんの目の前には、その�根岸先生�の白い、静脈が透けて見えて、そしてソバカスがポツポツと浮いている裸の胸がありました。勿論おっぱいは見えませんでしたけれども、木川田くんは、なんとなく、「ブヨブヨしたお母さんのおっぱいを吸っていて」と思いました。
それが�誰�だったのかはよく分りません。子供の時の自分かもしれないと思いました。「いつまでもお母さんに甘えているんじゃない」と子供の時に言われていたからです。
お母さんよりちょっと若い�根岸先生�のブヨブヨした白い胸を見て、木川田くんはソロソロと、後向きでプールに入りました。
その日は暑い日で、�根岸先生�の上には、お父さんの汗に濡れた腰を思わせるような太陽が輝いていて、その日のプールには看視の男の先生が一人もいなかったから、木川田くんには何がなんだかよく分らなかったのです。
 木川田くんがそのことを思い出したのは小学校の五年生の時です。五年生も終りに近い時で、おんなじクラスの男の子がエロ写真を持っていて、木川田くんは�ガツーン�と頭をやられたのです。
なんか、グズグズするものが写真《そこ》にあって、そういうものがなんか、突然木川田くんの中に、存在してしまったのです。体の中に熱い棒のようなものがカッと生まれてしまったように思いました。
その写真を見せてくれた男の子は笑いながら「チンコ、チンコ」なんて言っていましたが、木川田くんはカーッとなるだけです。
「でっかいなァ」という声が聞こえて来て、木川田くんは教室の隅で、なんだか分らない�太陽�のようなものが、汗をかいてギシギシと動いているのを感じました。
野蛮で、よくないもので、なんか、よく分んないものでした。
木川田くんは、お母さんと二人の部屋に帰って、お母さんがおつかいに行ってしまって一人になると、台所の隅にある流しの、ヌルヌルしたゴミの塊りを見て、自分の体が腐って行くと、そう思いました。
 木川田くんのお父さんが家を買って、木川田くんの一家が中野に越して来たのは、それから二年経ってのことです。木川田くんは、自分の体が腐らないことはもう知っていましたが、部屋の隅にあるお母さんの鏡台が冷たくって気持いいとか、そういうことが狭い部屋の中じゃいつかバレちゃうんじゃないかと思ってビクビクしていたので、自分の部屋が明るい二階にチャンとあるのを知って、「ホントにここに住んでいいんだろうか」と思いました。
「お前のしてることは全部知ってて、だからなんにもない部屋にお前を連れて来たんだぞ」って、お父さんが言ってるような気が、引っ越して来た初めての日に、新しい自分の部屋でしたからです。
 木川田くんのお父さんは、もう木川田くんに何かを分ってもらおうとは思っていませんでした。
何遍も何遍もそういう話をして、木川田くんのお母さんに「今更そんな話したって」と言われていましたし、時代もそんな風になっていました。自分はもう大体貧乏にはなっていないし、「まァいいか」と、木川田くんのお父さんは思っていました。
思っていましたが、まさか自分の子供がそんな風になっているとは、木川田くんが高校二年生の秋になるまで、木川田くんのお父さんは気がつかなかったのです。
 木川田くんのお父さんは、目の前が真っ暗でした。
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