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無花果少年と瓜売小僧60

时间: 2020-01-31    进入日语论坛
核心提示:  60「高校の時の友達なんだ」受話器を置いて、磯村くんは頌子ちゃんに言いました。「あ、ホント」 磯村くんは、頌子ちゃんが
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  60
「高校の時の友達なんだ」
受話器を置いて、磯村くんは頌子ちゃんに言いました。
「あ、ホント」
 磯村くんは、頌子ちゃんがいやになっていました。
 新学期が始まって、磯村くんも頌子ちゃんも二年生になっていました。
新学期になって磯村くんは、頌子ちゃんがこんなに暗い女の子だったかなと思いました。それほど竜崎頌子ちゃんは変っていました。広告研究会の他の子にそう言ったら「そうかなァ?」という答が返って来ました。磯村くんは「変った」と思うのですが、他の男の子達は「変らない」というのです。
「じゃァ、昔っから暗かったのかなァ」と磯村くんが言うと、「別に暗くないじゃない」という答が返って来ました。「なんだよ、もう別れる計算してんのかよ?」なんて言葉さえも飛んで来ました。
「えーっ?」と思いましたが、磯村くんはなんだかよく分りませんでした。「だってサァ、竜崎っていうのはサァ」って説明をしようとしたら、磯村くんは、�竜崎頌子�っていう女の子がどういう女の子なのか全然分んないということに初めて気がつきました。
とりたてて特徴もないし、性格だって分んないし、自分とおんなじクラブにいて文学部の史学科にいて、おとなしいんだか暗いんだかもよく分んない。お喋りだったのかもしれないけどそれだってよく分んない。まるでノッペラボーみたいな女の子と自分は付き合ってたのかと思ったら、ヘンな気になりました。
キャンパスの中を一緒に歩いていてもあんまり喋りません。「もっと一杯話したような気もするんだけど」と磯村くんは思いました。思いましたが、何を話したのか、磯村くんにはなんにも思い浮びません。気がつくと、頌子ちゃんは磯村くんのことを�ジーッ�と見つめているのです。
春のキャンパスの芝生に腰を下して、磯村くんはゾーッとなりました。「�なんだよ、もう別れる計算してんのかよ?�って、そういうことなんだろうか?」と磯村くんは思いました。
自分はなんにもしてないけど�この人�と僕は付き合ってる——一体自分は何をしてたんだろうと思ったら、磯村くんはゾーッとなりました。磯村くんはなんにもしてないし、何かをしたという記憶もないのです。知らない間に磯村くんは、異次元世界の蜘蛛の巣に閉じこめられてしまったような気がしました。
竜崎頌子ちゃんは、格別に不気味なところのある女の子でもありません。喋る時は喋っています。でも磯村くんには、彼女と具体的な話をしたという記憶がないのです。おとなしいのかもしれないし、おとなしくないのかもしれないし、自分に気があるのかもしれないし、自分に気がないのかもしれないし、すべてはなんだかよく分りません。はっきりしていることは唯一つ、磯村くんには、彼女と�別れる�理由がないのです。
ひょっとしたら、彼女に元気がないだけなのかもしれないと思いました。彼女を明るくする為にもう少し付き合ってあげようかとは思いました。
でも、彼女は明るくなる訳でもなく、彼女との付き合いを否定する理由がますます磯村くんにはなくなったという、ただそれだけのことでした。
家庭環境が暗いのかなァとも思いました。家族のことを訊いたら、「別にィ」とだけ彼女は言いました。
よく分りません。
はっきりしていることは、彼女と付き合っていて退屈することはないということでした。
よく分らなくて、「なんだろう?」「どうしてだろう?」と考えていると、それは退屈ではないからです。
内容のない女の子かもしれないけど、内容があるのかどうか、ともかく磯村くんには、それが見えないのです。
何も見えないまま、磯村くんと彼女の仲はジリジリと接近して来ました。気がつくと、彼女はその前までよりももっと近くにいるのです。磯村くんは、「追いつめられてる……」という感じを、どこかで感じました。でも、どこかで感じて後を振り向いても、自分には追いつめられる場所は、ないのです。磯村くんの後に壁があったり崖があったりしたら、それで磯村くんは�追いつめられた�ということにもなるでしょう。でも、磯村くんの後にはなんにもないのです。�追いつめられる�理由もないのです。
磯村くんは、自分のやり方が下手なのかと思いました。向かい合って坐っていて、彼女が黙っていて、そしてその沈黙が別に思いつめたような沈黙でもなくて——もしも彼女がジッとうつむいて黙りこんでいたら「どうしたの?」「なんとか言ってよ!」とか言うことも出来たでしょうが——言われることには答えて、話のない時にはどこかに視線が流れていてとなったら、磯村くんには、対処のしようがありません。
「あたしを退屈させているのはあなたが悪いのよ」と言われている気分になります。もし彼女がそう言うのなら、もしも彼女がそう言いそうな顔をしているのなら、そのことに対して�カチーン!�と来ることもあるでしょう。でも、そうではないのです。
磯村くんにはどうしていいのか分りませんでした。
だから磯村くんは「しない?」と、彼女の気を引くつもりもないのに、竜崎頌子ちゃんにデートの提案ばかりしていました。
一緒に映画を見に行ったり、一緒に喫茶店で話をしていたり、一緒に旅行まで行ってしまいました。磯村くんが何かを持ちかけない限り、彼女はまるでおしとやかなスッポンのように、磯村くんの前から吸いついて離れないのです。
同じクラブにいて、二人の関係は社会的に認知されているようなものでした。同じ大学にいて、おとなしい彼女を泣かせることは犯罪行為のようなものでした。
どうにもしようがなくて彼女と付き合っていて、でも付き合っている磯村くんは、�いやなものをいやと言うだけの自分�がいなくなっていることに気がつきませんでした。
そういう自分がいないから「いや」だとは言えないのです。そういう自分がいないから、決して追いつめられることなく、どこまでもどこまでも得体の知れないものに追いつめられ続けるのだということに気がつけませんでした。
伊豆の海を見下す民宿に一泊して、一緒に並べられた布団に寝て、気がついたら磯村くんは、彼女とセックスをしていました。もっとも、「一緒にどっか行かない?」と言われて彼女が「うん」と言った時からそうなることは決っていたのですが——。
彼女と東京に戻って来て、一緒に食事をして、それでも彼女が平気でいるものだから、疲れ切った磯村くんは「ウチに来る?」と言ったのです。
「もう、セックスしちゃったんだからそれでいいだろうし、その方が自然だろうし」と思っていて、磯村くんはそう言ったのです。
 電話を切った磯村くんは、磯村くんの部屋で磯村くんの横にいる竜崎頌子ちゃんに「高校時の友達なんだ」と言いました。
「あ、ホント」と、竜崎頌子ちゃんは言いました。
とても抱き寄せてキスしたり「泊ってく?」なんてことを訊きたい気分ではありませんでした。
磯村くんは、もうその退屈な�永遠�がいやになったのです。
「あーあ」と言って、磯村くんは立ち上りました。ゲンコツで腰を叩きながら「どうするの?」と、坐っている頌子ちゃんに訊きました。なんだか、関係のないものが目の前にいるような気が磯村くんにはしたのです。
「帰るわ」——珍しくはっきりした口のきき方を頌子ちゃんがしたように思いました。
「うん」
磯村くんは言いました。
「送ってくよ」
磯村くんは言いました。
「うん」
なんだか、渋々という感じで頌子ちゃんは立ち上りました。
磯村くんは「あーあ」と、大きな伸びをしました。
なんだか、悪い空気が消えて行くような気がしたのです。
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