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帰りは、磯村くんは歩いて帰りました。バスで来たから、道は分っていたんです。
ホントは三限だって講義があったんですけど、でも、|生協の大食堂《ヒル・トツプ》に御飯を食べに行かなくちゃいけないんで、いやだから帰りました。学生がウジャウジャいるんです。
何故それがいやかって訊かれても困ります。ヤなものはヤだとしか、磯村くんが答えてくれないからです。
磯村くんは階段を降りて、長いスロープを降《くだ》って、多摩動物公園行きのバス乗り場に立っていました。これは、いつも磯村くんが帰るのとは反対の方向です。
京王線の多摩動物公園駅から大学まで続く山道は�北門�の方で、正門はそれとは反対の南にありました。正門の前にバス乗り場があって、磯村くんは、陽の当る坂道を歩いてここまで来たのです。
チャンチャラおかしいやというぐらいに、お昼のお日様はギラギラと輝いて、青空に浮んでいました。
チャンチャラおかしいやというぐらいに、お昼のお日様はギラギラと輝いて、青空に浮んでいました。
バスはなかなか来ませんでしたが、なんでいつもとは逆の方向に行ったのかというと、それは勿論、午後の授業目指して爽やかな新緑の山道をゾロゾロとやって来る健康な同級生達に出会うのが、磯村くんにはいやだったからです。
もう理由は訊かないで下さい。
多摩動物公園行きのガラ空《す》きのバスの中で、磯村くんはあの�マゾのおじさん�のことを考えていました。
もう理由は訊かないで下さい。
多摩動物公園行きのガラ空《す》きのバスの中で、磯村くんはあの�マゾのおじさん�のことを考えていました。