飲むと、すぐに赤くなる。そこで、自己紹介をしなければならないときなどは、
「顔は赤き[#「赤き」に傍点]ですが、姓は青木[#「青木」に傍点]です」
とやる。そうして「その代わり、腹は黒き[#「黒き」に傍点]です」と、つけ加える。ちゃんと平仄《ひようそく》は合っている。
「赤きは酒の咎」
ということわざは、
「顔の色が赤いのは、酒のせいで、飲んだ私のせいではありません」
といった意味である。ま、酒の上の軽口——減らず口だね。
これが、酒飲みの言いわけに使われるようになると、あぶない。転じて、自分の過ちを認めず、責任のがれをすることに言う。
「子供が道で転んだのは、そこに石があったからだ」
「学校が面白くないのは、先生が若いからだ」
「うちの子がグレたのは、友達に誘われたからだ」
昔は、
※[#歌記号、unicode303d]電信柱が高いのも 郵便ポストが赤いのもみんな あたしが悪いのよ
と歌ったものだ。いまは、生活が苦しいのも、夫(あるいは妻)が浮気に走るのも、ヘンな病気が流行《はや》るのも「みんな、政治が悪い。社会が悪い。他人が悪い」ということになっている。それもこれも、飲んで赤くなるのを、酒のせいにしたためか?