ことわざで、
「悪女の深情け」
という場合の「悪」は「醜悪」の「悪」だ。
悪女すなわち醜女《しこめ》、つまりブスなり。
そこで、
「美人は多くは情《じよう》が薄いが、醜い女は情も濃い代わりに、嫉妬心も強い」
ということになる。転じて「ありがた迷惑」の意味だ。
ところで、
「バカをバカと言って、どこが悪い?」
という冗談は許せるが、
「ブスをブスと言って、どこが悪い?」
という冗談は許せない——というのが、憚《はばか》りながら、わたしの持論だ。わたくし、幼少の頃から、
「おまえは器量が悪いから……」
と言われて育ってきたので、醜女の哀しみが他人事《ひとごと》ではない。
だいたいが、何を基準に美醜を問うつもりか? もし、女性で容貌に自信がなかったり、容貌のまずいことを自覚しているひとがいたら、わたしなんぞは、その心根だけで「美しい」と思ってしまう。
ブスが、
「ブスッとしているから、ブスだ」
というんなら、わかる。が、そういうのは�深情け�ならぬ�浅情け�だろう。できることなら、おつきあいしたくない。