採用試験で、
「きみのお父さんの職業は?」
と訊こうとしたら、
「そんなこと訊いてはイケナイ」
と、隣の試験官に窘《たしな》められた。彼によると、
「受験生の親の職業を訊くことは差別になりますよ」
というのである。
こっちは、微塵もそんなつもりがなかったから、ビックリした。わたしとしては「きみのお父さんの職業は?」と訊かれて、受験生が「ハイ、お父さんの職業は……」というふうにオウム返しで答えるか「ハイ、父の職業は……」というふうにちゃんと言い直すかどうかを知りたかったのである。もちろん、言い直すほうが、正解だが……。
それにしても、なにか言いかけると、
「それは、差別だ」
と言い出す連中が輩出してきて、なかなかもの[#「もの」に傍点]が言いにくい。なかには、なんの根拠もなしに「それは、差別だ」と言い張って、相手の発言を封じようとする向きもあるみたいである。
「あつものに懲りて膾を吹く」
ということわざは、熱い吸いものにやけどした者がそれに懲りて、次からは冷たい料理も吹いてさます意から、前の失敗に懲りて必要以上の用心をすることだ。非難を恐れて言いたいことも言えなくなる風潮のほうがコワい。