評論家の扇谷正造先生に、
「怒った手紙は一日寝かせろ」
ということを教わった。相手に抗議する手紙は、とかく興奮が先に立ち、客観性に欠けることがあるから、すぐに投函せず、せめて一夜だけでも手元におき、
「翌日になって、もういちど読み直してみよう」
というのだ。
これは、怒った手紙だけのことではない。たとえばわたしのように売文を業とする者は、ホントウは締め切りの前の日に書きあげ、当日になって読み直したうえで編集者に手渡すのが理想である。
しかし、理想はあくまでも理想であって、現実ではない。現実は締め切りに追われ、あたふたと書きあげては、書きあげるそばから編集者に渡している。
言っちゃナンだが、世の中、腹の立つことが多い。そいつを押さえているうちに気がムシャクシャしてきて、つい手近な人間に八つ当たりする。
「言いたいことは明日言え」
ということわざには、そのへんの事情がちゃんと踏まえてあるようで、くすぐったい。わたしたちは、とかく興奮すると、言いたいことばかりか、言わでものことまで口走ってしまうようである。
「言いたいことは明日言え」
ということも、明日いわねばなるまいか?