エチケットを、
「エケチット」
と言ったひとがいた。時の総理大臣である。
スリルを、
「スルリ」
と言ったひともいる。世界的な映画俳優だ。
映画俳優は、新聞記者に、
「スリルじゃないんですか?」
と指摘されると「スルリとも言うんだ」と、肩を怒らしたそうな。それでこそ世界的な映画俳優だろう。
負け惜しみのたとえに、
「石に漱ぎ流れに枕す」
ということわざがある。ホントは、
「流れに漱ぎ石に枕す」
と言うべきところを、晋の孫楚がまちがえたのだ。まちがいを指摘されて、孫楚は答えた。
「なーに、石で口をすすぐのは歯をみがくためであり、水の流れを枕にするのは耳を洗うためじゃ」
ちなみに、明治の文豪・夏目漱石のペンネームは、中国の故事に拠《よ》っている。漱石先生も、相当にひねくれ者だ。
余談だが、
「流石」
と書いて「さすが」と読ませるのも、中国の故事に由来している。当て字である。
言いまちがいのことわざを自分のペンネームにしちゃうんだから、さすが漱石だ。