第一次南極観測越冬隊長をつとめた西堀栄三郎さんに『石橋を叩けば渡れない』(日本生産性本部刊)という本がある。書名の『石橋を叩けば渡れない』は、もちろん、
「石橋を叩いて渡る」
ということわざのもじり[#「もじり」に傍点]である。
このことわざは、
「乗って壊れるはずもない石橋を杖《つえ》で叩き、安全を確かめたうえで渡る」
という意味から、ふつうは用心深すぎる人物を軽蔑する場合に使うが、ときに「念には念を入れ」というふうに用いることもあるようだ。石橋を叩いて、渡らない人が出てきたからだろうか。なかには、石橋を叩いて壊しちゃったりする人もいて……。
西堀さんは『石橋を叩けば渡れない』に、
「探検家は、まず第一に、やるかやらないかという決心をする前に調査するよりも、やるという決心をしてから調査をします。決心をしてから後にやる調査というのは、いかにして失敗のリスクを減らすかということに専心することになるわけです」
と書いていらっしゃる。やる前に考えるのではなくて、やってから考えるのだろう。なにごとも、考えていたら、やれっこない。
なお、西堀さんは、
雪よ 岩よ
という、あの『雪山讃歌』の作詞者でもある。日本山岳会の会長でもあった。