「ちかごろの子供たちは、ナイフが使えない」
と言ったら、どこかの母親に、
「エンピツ削りがあるのに、エンピツ削りを使って、どこがいけないんですか?」
と抗議された。こちらは「ナイフが使えない」という�事実�を述べただけなのに、あちらは�非難�と受けとめたようである。
ま、一事が万事だ。
「一事が万事」
という。一つのことがその調子なら、
「たぶんすべてのこともこの調子だろう」
と、一つの事例や一部分から他のことを推し測るたとえだ。あんまりいい[#「いい」に傍点]意味では使われない。
会社で、女子社員にホッチキスならホッチキスを買いにやらせ、帰ってきてから、
「このホッチキス、どこで買ってきた?」
と訊くと、たいがいの女子社員が、
「あら、どこか壊れてましたか?」
と訊き返す。こっちは、デパートで買ってきたのか、文房具屋で買ってきたのかを知りたかっただけなのに……。
夕飯のときに、女房が作った料理を指さし、
「これ、なんと言うの?」
と訊いてみる。とたんに、女房は、
「まずかったら、食べてくれなくても結構よ」
とフテクサれるだろう。
かくて一事が万事、いや、万事休す——である。