「なぜ正月がめでたいか?」
と言うと、
「年の初めだから」
という以外に理由が見当たらない。年の初めがめでたいんなら、年のなかばも、年の終わりもめでたくってもよかりそうなものを。
「一富士 二鷹 三茄子」
と言う。いやがうえにもめでたいのは、
「年の初めに、これらの夢をみることだ」
と伝えられている。
江戸時代からのことわざで、みんな将軍・徳川家康ゆかりの駿河の国に結びついているところなんぞ、なかなかのものだ。富士山は言うまでもなく、鷹も、茄子も、駿河の国の名産なんだそうである。
それは、まあ、それとして、富士の高嶺は高く大きい。鷹は猛禽《もうきん》で他の鳥を掴《つか》み取る。そして、茄子は「成す」に通じる。ホント、縁起がいいものばかりだ。
そして、江戸の狂歌に、
初夢まさに見し一富士二鷹三茄子夢ちがへして獏《ばく》に食はすな
バクは、想像上の動物で、形はクマ、尾はウシ、脚はトラ、鼻はゾウ、目はサイに似て、人の夢を食うと言われている。せっかく富士山に鷹が茄子をくわえて飛んでいった夢をみたところで、これをバクに食べられたんじゃ、どうにもならない。ユメユメ夢ちがえなど、なさらぬように。