帰りしなに、
「一宿二飯の恩義にあずかりました」
と挨拶した奴がいる。前の晩に泊まった若い友人である。思わず、
「それを言うなら、一宿一飯の恩義だろう」
と注意したら、
「だって、ゆうべも晩ご飯をゴチソウになり、けさも朝ご飯をいただきました」
と言う。それで「一宿二飯」なのだそうだ。
小学館の『ことわざ大辞典』に「一宿一飯」は、
「一晩泊めてもらい、一度の食事をふるまわれること。ちょっとした世話になること。博徒《ばくと》の間の仁義では、こうした恩恵を生涯の恩義とした」
と出ている。バクチ打ちは、泊まっても、朝飯を食べずに出ていったのだろうか。
マンガ家の福地泡介さんがエッセイ集『ホースケのまだ酔いの口』(実業之日本社刊)に「一宿一犯」という話を書いている。
——酔って、一人住まいの彼女のマンションへ泊まった。そうして、無理やり……。
それで、
「責任を感じて結婚しちゃった」
というのである。生涯の恩義ならぬ生涯の伴侶としたわけだ。
考えてみれば、結婚なんて、そんなものかも知れない。ホント、どっちがどっちを犯そうと……。