「言わぬは言うにまさる」
というけれど、世の中には、
「言わねば腹ふくる」
ということだってある。わたしみたいに、思ったことを半分も口に出せない性分だと、ストレスが溜《た》まっちゃってしょうがない。
俗謡にも、
※[#歌記号、unicode303d]鳴く蝉よりも
鳴かぬ蛍が身を焦がす
というのがあるが、ひとり身を焦がしていたところで、相手に通じなきゃどうにもならぬ。
ノンキに、
「そのうち、わかってもらえるだろう」
と考えていると、焼け死んでしまう。
ナマイキなことを言わせてもらえば、黙っていてもわかるようになるには、黙っていたんじゃわからない。おたがいに、それなりの努力を重ねた末、やっと気心が通じあう。
そんなわけで、
「好きだよ」
という一言《ひとこと》が言えなかったばっかりに、トンビに油揚げをさらわれてしまったら、さらわれたほうが悪いのである。
もっとも、
「イヤです」
という一言が言えなかったばっかりに、女のひとのお腹が大きくなってしまったら、いったい、これは誰が悪いのだろう? ホントに「言わねば腹ふくる」とは、よく言った。