「この世に嘘というものは存在しない」
というのが、わたしの信念だ。嘘だとおっしゃるんなら、証明してみせよう。
だいたい、嘘には二種類ある。すぐにバレる嘘とぜったいにバレない嘘である。
たとえば、
「オレは富士山を動かすことができる」
といった嘘は、すぐにバレる嘘である。聞いているほうは、はじめっから嘘とわかっているので、騙《だま》される心配もない。
すぐにバレる嘘は、罪がない。みんな本気にしていないから、嘘のうちに入らない。
たとえば、
「オマエに惚《ほ》れた」
といった嘘は、ぜったいにバレない嘘である。聞いているほうは、はじめっから疑っていないので、
「あれは、嘘だ」
といっても信じてもらえない。
バーブ佐竹が歌った『女心の唄』(作詞山北由希夫・作曲吉田矢健治)にも、
※[#歌記号、unicode303d]どうせ私を だますなら
だまし続けて 欲しかった
という文句があったが、騙しつづけている限り、騙されているほうは本気にしているから、これも、やっぱり嘘ではない。
そんなわけで、この世に嘘というものは、存在しないのである。ホント、この嘘、嘘じゃない。すなわち「嘘も方便」だ。