「貴様なんか、やめちまえ!」
新聞記者時代は、よく部長に怒鳴られたものだ。部長もまた、よく怒鳴った。
とたんに、次長がノッソリとやってきて、
「まあ、まあ」
と、間に入る。
「ここは、まあ、ひとつ私に委せて……」
すると、
「うるせぇ!」
部長のホコ先は次長に向けられる。
「テメエなんか、ひっこんでろ」
そのたびに、
「でも、やめちまえッて、部長に人事権はないはずなんですが……」
と、アゴを撫でるのが、次長のクセだった。
これには、部長も苦笑して、
「わかったよ。こいつのことは、お前に委せるよ」
その結果、
「ダメじゃないか」
わたしたちは次長に諄々と諭されることになるのだが、いまにして思えば、どうも、あれ、お芝居だったような気がしてならない。部長と次長は、たぶん「同じ穴のムジナ」だったのだ——と書きかけ、一見別もののようにみえて実は同類であることをたとえる「同じ穴のムジナ(またはキツネ)」は、多く悪人に用いることに思い当たった。されば、部長と次長の場合は「同じ穴のタヌキ」かな?