「不倫とは?」
と訊いたら、
「女の浮気」
と答えた先輩がいる。
「では、男の浮気は�不倫�じゃないのか?」
と問い詰めたら、
「不倫じゃない」
と答えたから、愉快だ。先輩に言わせれば、男の浮気は人の道にはずれてはいないんだそうである。西洋にも、
「夫の九〇パーセントは浮気を考え、一〇パーセントは嘘をついている」
といった格言があるそうな。誰ですか? じゃあ、オレは一〇パーセントのほうか——ナンテ、胸の底でブツブツ言っているのは。
それは、まあ、ともかく、彼の説に従うと、
「だから、亭主の浮気を恐れているような女は、結婚なんかしないほうがいい」
ということだ。要するに「亭主は浮気するもの」と、初めっからキメつけておいたほうがまちがいない——というのである。
こんなことをバラしたら彼に叱られるかもしれないが、先輩だって、結婚する前は、こんなふうじゃなかった。彼も、一途《いちず》な愛を奥さんに誓ったはずである。
されば、結婚生活が「彼は昔の彼ならず」としたのか? が、コッケイなことに、
「オレの女房だけは浮気しない」
という彼の信念は、少しも変わっていない。