旅に二種類あり。ジャーニィとトラベルである。
どちらかといえば、ジャーニィは楽しい旅で、トラベルは辛い旅だろう。
昔の旅は、トラベルだった。憂《う》いもの、辛いものだった。
だから、
「可愛い子には旅をさせよ」
ということわざは、
「子を愛するなら、旅に出して苦労させたほうがいい」
という意味だった。旅は、故郷を離れることでもあった。
しかし、いまの旅は、ジャーニィだろう。憂くもなければ、辛くもない。むしろ、心|弾《はず》む楽しさに満ちている。
されば、
「可愛い子には旅をさせるな」
と言うか——と思ったら、そうではない。おおかたの親たちは「だからこそ、旅に出したい」と言うだろう。
——親馬鹿ちゃんりん、ソバ屋の風鈴。親が子に旅させたいばかりに苦労する。
かのキリスト教初代教父アウグスティヌスも言っている。
「世界は一冊の本にして、旅せざるひとびとは本を一ページしか読まざるなり」
そういえば、ちかごろのガキたちは、旅には出ても本なんか読まない。