「愛しているか?」
と迫られれば、つい口ごもってしまう。男にとって、こういう質問に答えるのは、どうにも難儀である。
男が「愛している」という言葉を口にしたがらないのは、愛するということがよくわからないからだ。あるいは「自信がないからだ」と言ったほうが当たっているかも知れぬ。
それなのに、女のひとは、男に「愛している」と言わせたがる。女のなかには、男がそう言えなくて苦しむのを楽しんでいるひともいるみたいだ。
女のひとに、
「いちども�愛している�と言われたことがなかった」
と責められた男がいる。トーゼンのことながら、この恋は過去形である。
どうせ終わってしまった恋なんだから「愛していたよ」と、ひとこと言えばそれで相手の気も済むんだろうが、それが言えない。うっかりそんなことを言おうものなら、
「じゃあ、なぜ愛さなくなったのか?」
と問い詰められそうだからだ。
気楽に「愛している」と口に出せる男たちが羨《うらや》ましい。そういう男たちは、
「口は口 心は心」
と割り切っているのだろう。
それとも、なにかな? 彼らは「体は体、心は心」と割り切っているのかな?