読者から手紙をいただいた。それには、こんなエピソードが紹介されていた。
——初夏。某ホテルでおこなわれた結婚披露宴でのことである。急に蒸し暑くなり、客の要望もあって、シーズンとしては初めてクーラーを入れた。とたんに、冷気と一緒に煤《すす》がテーブルの上に落ちてきたではないか。
そのテーブルに、客の立場でホテルの重役さんがついていたから、堪《たま》らない。彼の顔は真っ赤に、いや、真っ青になった。
時あたかも来賓挨拶。重役さんの隣に坐っていた某デパートの会長さんが指名され、
「本日はおめでとうございます」
と言ってから、
「ただいまは煤が舞い降りてまいりました」
とやったらしい。そうして、
「こんなおめでたいことはございません。なぜって煤は、寿々と書きますから……」
この手紙をくださった読者は、
「忘れられないジョークです」
と書いていたが、これこそ�ちょっといい話�だろう。聞けば、デパートの会長さんは、そのホテルの社外重役だったそうな。とっさの知恵で、身内の難儀を救ったわけだ。
「怪我の功名」
ということわざは、過失や災難と思われたことが、思いがけない好結果をもたらすことである。また、なにげなくしたことが、偶然に良い結果になることにも言う。