こんな原稿でも、あとから「ああ書けばよかった」「こう書けばよかった」と思い悩むのである。たとえば、
「腐っても鯛」
ということわざについては、なにも台風のことなんか持ち出さずに、
「鯛は腐ってからのほうがおいしい」
「腐っている鯛でも、もったいないから食べたほうがよい」
「イヤなことがあってクサッているときでも、鯛を食べれば元気になる」
といった珍解釈のあることを披露すべきだったかな——とも思う。
ことわざにも、
「下衆の後知恵」
という。わたしみたいに下賤な者、アタマの悪い人間は、その場ではよい知恵も浮かばず、コトが終わってから、いろいろ思いつく。
これは、トーゼンのことながら、
「ああすればよかった、こうすればよかった」
というふうに愚痴まじりとなる。自慢じゃないが、どうにも辛気くさい。
だから、書き損なったり、やり損なったりしたことにかんしては、黙っていればいいのである。ホント、黙っていれば誰にもわかりゃしないのに、わざわざ口に出すところが、下衆なのだろう。
下衆は身分の低い者、教育のない者、転じて「愚かな者」のことである。