「釘」
と、大工さんや金物屋は書いた。わたくし、金物屋の倅だから、よーく知っている。
カスガイのことである。二つの材木をつなぎとめるために打ち込むコの字型のクギのことだ。
二つの材木は、カスガイを打ち込まなければ、つなぎとめておくことができない。ひょっとしたら、二世を誓った夫婦の仲だって、間に何かつなぎとめておくものがないと、いつかは別れてしまいかねないほど脆《もろ》いものなのかも知れぬ。
そんな夫婦の間にあって、カスガイの役を果たすのが、子供である。夫婦の縁は切ることができても、親子の縁は切ることができない。
世間には、
「この子の将来のことを思うと……」
というだけの理由で、辛うじて夫婦の体面を保っている細君も多いのではないか。言っちゃナンだが、そういう家庭の子は不幸だ。
ことあるたびに、
「お母さんがお父さんの冷たい仕打ちに耐えているのは、あなたのためなのよ」
と、愚痴を聞かされる。なんだか荷が重い感じで、
「オレなんか、どうだっていいじゃないか」
という気になってくる。
ホント、材木なんて、勝手なんだから……。
たまにはカスガイの身にもなってくれ。