忘れられぬシャレがある。早川良一郎さんのエッセイ集『さみしいネコ』(潮出版社刊)でみつけた。いわく——
「モボとかモガとかいう言葉があった時代、モボはステッキをぶら下げて銀座へ現れたものである。ステッキがそんなに珍しいものでなかった証拠にステッキガールという言葉の職業があった。
銀座にはステッキ専門店があり、その頃あった夜店にもステッキばかり売っている店があった。専門店に並んでコロンバンがあった。それで、あのステッキ屋は、コロンバン先の杖だから、世界最高のステッキ屋だという人もあったのである」
失礼ながら、これだけのことだ。改めて説明するのはヤボというものであろう。
なにごとも、失敗してからでは遅いのである。失敗しないように、前から用心しておくことに越したことはない。
「転んでもただは起きぬ」
ということわざもあるけれど、
「転べば糞の上」
ということわざもある。前者は強欲な感じだし、後者は「泣きっ面に蜂」と同じ意味である。
それよりも、やはり、
「転ばぬ先の杖」
といきたい。早川さんの文章を急いで引用したのも、忘れぬうちに——と思ったからだ。