手紙の名文の例に、
「一筆啓上 火の用心 おせん泣かすな 馬肥やせ」
というのがあるのは、ご存じだろう。徳川家康の家臣・本多作左衛門が陣中から留守宅に宛《あ》てた手紙である。
されば、
「一金 三両
ただし馬代
右馬代 くすかくさぬかこりゃだうぢゃ くすといふならそれでよし くさぬといふならおれがゆく おれがゆくならただおかぬ かめのうでにはほねがある」
というのは、どうじゃ? 奥羽の博労の亀という男が書いたと伝えられる借金返済請求の手紙である。
「くす」は「返す」だ。人によっては「くす」を「貸す」と受け止めている人もいるが、それでは無心状になってしまう。この手紙、ちと乱暴だが「四の五の言わせぬ」といった気迫がいい。
「四の五の言うな」
ということわざの「四」「五」は、カルタ博打の三枚遊びに使う「四」と「五」の札のこと。この二つを合わせると、九すなわちカブで最高点となる。
つまり、四と五の札が出れば、この二枚で勝負がついたも同然で「人間、諦めが肝心ダゾ」という意味である。