月に叢雲《むらくも》 花に風
「月」
といえば秋の月で、
「花」
といえば春の花、すなわち桜である。歳時記でも、そうなっている。
月については、
「よき月夜照ってや照ってよき月夜」
という回文もある。回文は上から読んでも下から読んでも同じ言葉だ。
花については、
「桜の樹の下には屍体が埋まっている!」
という、梶井基次郎の文章が強烈である。桜の花があんなに見事に咲くのは、そのためなんだそうだ。
「月に叢雲 花に風」
ということわざは、月が出ると雲がおおい、花が咲くと風が散らすように、浮世のままならぬことのたとえである。同じ意味のことわざに、
「好事魔多し」
というのもあれば、
「花に嵐」
という言い方もある。
唐の于武陵に「勧酒」という詩があって、わが井伏鱒二さんは次のように訳した。
コノサカヅキヲ受ケテクレ
ドウゾナミナミツガシテオクレ
ハナニアラシノタトエモアルゾ
「サヨナラ」ダケガ人生ダ