ホントは一緒にいたいから、夫婦になったんだろう? べつに一緒にいたくなかったら、なにも夫婦になることはない。
亭主が「寒いな」と言えば、女房も「寒いわねぇ」と言う。女房が「暑いわね」と言えば、亭主も「暑いなあ」と言う。それで、いいのである。
ところが、亭主が「寒いな」と言うと、女房が「あたしのせいじゃありませんよ」と言う。女房が「暑いわね」と言うと、亭主が「オレの知ったことか」と言う。これじゃ、なんのために夫婦になったのか?
もっとも、亭主がカラスを見て「あれは、サギだ」と言ったからって、女房も「うん、サギだわ」と調子を合わせるのは、どんなものか。ひょっとしたら、亭主は女房を試しているのかも知れないではないか。
もっとも、亭主が「オレは、赤いカラスが好きだ」と言うぶんには、別である。この世に赤いカラスがいるかどうかは知らないが、彼の好みなんだから、仕方がない。そういえば、そんな彼を好きになった女房だって、ずいぶん物好きですね。
エボシは、ふつう黒いのに、彼は赤く塗ったエボシが好きなのである。認めてやれよ。
ほかに、
「亭主の好きな赤鰯」
という言い方もある。でも、赤鰯[#「赤鰯」に傍点]が好きなのは、女房のほうなんじゃないのかなあ。