その昔、
〈仲間に「野鴨」がいるのはタノシイものです〉
という広告があったのを覚えている。求人広告だった。
〈出る杭を求めます〉
という広告もあった。これまた求人広告だった。わたしなんざ、これらの広告を本気で信じて、
「甘いなあ」
と笑われた。
〈出る杭を求めます〉
といったキャッチフレーズは、
「出る杭は打たれる」
ということわざの逆を言おうとしたものだ。
能力を発揮して頭角を現す者は、とかく嫌われがちだが、
「わが社では、そういう人材こそ求めている」
というのである。いーい広告だった。
それにしても、杭を並べて立てるときは、たいがい高さを揃えようとするから、出すぎた杭は、ほかの杭と同じ高さになるまで打たれる。ときに打ちすぎて、そいつが、ほかの杭より引っ込んでしまうこともある。
そうすると、こんどは、ほかの杭がそいつと同じ高さになるまで打たれ、そのうちのどれか一本が、また引っ込みすぎると……。
世の中、出すぎた奴だけが叩かれるわけじゃない。引っ込みすぎた奴がいると、そいつのせいで、まわりが叩かれることもある。