相手が捨てた牌がアタリだったので「ロン!」と宣告した。黙って満貫である。
すると、慌てて引っ込めたから、
「それは、ないだろう」
と、抗議した。が、相手はテンとして恥じぬ。
「汚え!」
思わず叫んだら、ギャーギャー泣き出した。
とたんに社長が飛んできて、
「どうした?」
と言うではないか。
そこで、
「カクカクシカジカです」
と説明したが、社長はニヤニヤ笑って「ま、カンベンしてやれ」と言うだけである。いくら社内のマージャン大会で、いくら相手が女の上役だからといって、こんなのは許せない。
「泣く子と地頭には勝てぬ」
ということわざは、こんなときのためにあるのだろうか? 地頭は、平安、鎌倉時代、荘園の管理をした者のことで、いまで言えば権力者に当たる。
わたしの場合は、子供どころか地頭、いや、上役に泣かれたんだから、どうにもならない。まして、彼女が後に社長夫人になるなんてことは、これっぽっちも知らなかったんだから、処置ナシだ。
以後、わたしは、どんなことがあっても社内のマージャン大会には参加しなかった。それが、せめてものわたしの抵抗だった。