もともとは、
「他人に情けをかけておけば、それがめぐりめぐって必ず自分によい報いがくる」
といった意味だが、ちかごろは、
「なまじ他人に情けをかけると、甘える気持ちが生じて、その人のためにならない」
というふうに解釈する連中がふえてきた。なんとなく、わからないでもない。
——新聞記者時代、それもデスクをやっていたときだった。部下の細君がやってきて、
「亭主と別れたい」
と言う。
よせばいいのに、わたしは彼女に彼の嫌いなところを挙げさせ、それから好きなところを一つ一つ挙げさせた。すると、バカらしいことに、好きなところのほうが多いではないか。
「あら、あら!」
彼女は自分の意外な発見に、
「離婚は思いとどまります」
そう言って、帰って行った。わたしが胸を撫でおろしたのは、言うまでもない。
ところが、しばらくして部内でわたしに対する排斥運動が起こり、
「その急先鋒が彼だ」
と知ったときの驚き! わたしは、いまさらのように「あのとき、あいつを離婚させておけば……」と思ったものだ。
情けは、わたしのためにもならなかったのである。