「七つ下がりの雨」とは、夕方、四時すぎに降り出した雨のことである。こいつは、朝の雨とちがって、やみそうで、なかなかやまない。
そんなことから、四十歳すぎてからの浮気にたとえられ、
「七つ下がりの雨と四十過ぎての道楽はやまぬ」
と言われたり、
「四十過ぎての道楽と七つ下がって降る雨は止みそうでやまぬ」
と言われたりする。中年になってから覚えた浮気の味は、若いころのそれとは異なって、やめたくてもやめられないものらしい。
ちかごろ、
「熟年の離婚」
ということが言われる。熟年すなわち中年で、そのほとんどは、夫なり、妻なりが、妻以外、夫以外の異性に魅《ひ》かれてのことだ。
あるひとが当事者を窘《たしな》め、
「若いときの過ちは簡単に取り返しがつくが、分別ざかりの過ちはお互いに不幸じゃないか」
と言ったら、
「イエ、若いときに結婚したことが過ちだったんです」
という答えが返ってきたそうだから、処置ない。言っちゃナンだが、これは、かなりの重症である——と書きかけ、
「そういえば、そんな気がしないでもないなあ」
と思いはじめている。わたしもまた、中年である。