知り合った紳士に、
「どうです? ひとつ株でも買いませんか」
と誘われれば、彼のことだから、
「そんなカネはないよ」
と断ったろうと思う。とたんに、相手は、
「おカネなら、貸してあげますよ」
と言う。
しかも、この株は公開前で、まず値上がりはまちがいない。値上がりしたところで売れば、黙っていても儲《もう》かる仕組みだ。
そこで、
「そんな�濡れ手で粟�みたいなこと!」
と、彼はことわざを使って尻込みをしたかも知れぬ。このことわざは、水に濡れた手で粟をつかめば、つかんだ以上にどっさりついてくるところから、何の苦労もなしに多くの利益を得ることのたとえである。
しかし、どうにも落ちつかないので、
「なんか法律に触れるんじゃないのか」
と念を押すだろう。すると、相手は、
「ぜったいに触れない」
と保証する。
そうまで言われて、この株を買わない人間がいたらお目にかかりたい。いわゆる「リクルート疑惑」は、こうして起こった。
その結果、司直に調べられた日には、政治家たるもの、慌《あわ》てざるをえまい。濡れ手で粟をつかもうとして、アワを食ったんでは、シャレにもならぬ。