「濡れごと」
という。芝居で演ずる情事の仕種《しぐさ》だ。
「濡れ場」
という。その濡れごとの場面、ベッドシーンである。
そして、
「濡れ師」
という。濡れごとを演ずる俳優、転じて情事に巧みな者、うまく女をたぶらかす男のことだ。いまは、男もすなることは女もするから、男をたぶらかす女のことも言う。
「濡れる」
という言葉には「ものに水がかかる。またはかかって滲み込む」という意味もあるが「男女が情を通ずる。いろごとをする」という意味もあるのである。このことわざの「濡れる」は、もちろん、両方にかけてある。
雨に濡れる前は、少しでも濡れるのを嫌って露も避けようとするが、いったん濡れてしまうと、露を避けるどころか、濡れることなど気にせず、雨の中をズブ濡れになって歩く。
それと同じように、あんなにカタかった人がいったん味を覚えてしまうと……。
それでも、濡れた相手と添い遂げられれば、いい。これが、たまたま相手に亭主がいたり、妻子があったりしたら?
よく知らないが、女のひとのほうが夢中になる度合いは強いらしい。しかし、ウンザリする度合いは、男のほうが強いみたいだ。