悲しいかな、昭和ヒトケタ生まれの男たちは、食べものを残すことができない。もののない時代に育ったせいで、なんでも「モッタイナイ」と食べてしまう。
いじましい話だけれど、ラーメンの汁も、きれいに飲み干す。女房に「そんなに塩分をとったら、毒ですよ」と注意されると「こうすりゃ文句はなかろう」と、お湯を足して飲んでいる。
みんなで饅頭を食べるときなんかも大変だ。数が割り切れなくて一つ余ったような場合、誰が手を出すか、たがいに牽制している。
そんなとき、きまって誰かが呟くのが、
「残りものには福がある」
ということわざだ。そう呟きながら、さっと手を出す。
考えてみたら、このことわざ、もともとは余ったものを誰かに押しつけようとして言い出したのかも知れぬ。おかげで、残りものも、気持ちよく始末されることになった。
俗に、
「嫁《ゆ》き遅れ」
という。結婚したくとも、なかなか結婚できなかった女のひとのことである。
そんなひとが、ひょいと良縁に恵まれると「残りものに福だねぇ」と言われる。あくまでも良縁に恵まれたら——の話で、嫁き遅れたひとが必ずしも良縁に恵まれるという保証はできないけれど……。