先輩に、
「十年早いぞ」
と笑われたことがある。十年ほど前、
「万婦これ小町」
と呟いたときだ。
こっちは女のひとにモテないもんだから、少しでも優しくされると、すぐにポーッとなってしまう。それで、
「少しでも優しくしてくれる女のひとは、みんな小野小町のように美しい」
というつもりで、そう言ったのだ。
ところが、この言葉には、もうちょっとエロチックな意味がこめられているみたいだ。よくわからないが、それこそ女遊びの限りを尽くしたうえで、はじめて悟ることができるような、そんな境地を言うらしい。
あれから十年たったが、依然としてモテないし、女遊びなんてトンデモナイ。どちらかといえば、適当に遊ばれたほうではないか。
おかげで、女のひとがホントはそんなに優しくないことも知った。どうも、女のひとの優しさには裏があるみたいだ。
とたんに、
「女のひとは、すべて妖婦だ」
という言葉が閃《ひらめ》いた。妖婦すなわちヴァンプである。
「万婦これ小町」
という言葉は「ヴァンプこれ小町」のまちがいではないか——と思っている。