「隣の花は赤い」
ということわざがある。くやしいけれど、
「隣の家に咲いている花は、自分の家に咲いている花よりも赤くて、きれいだ」
という意味である。
なんでも、ヨソのものは、自分んち[#「自分んち」に傍点]のものより、よくみえるものだ。それは、女房だって同じことだろう。
自慢じゃないが、他人の女房をホメることができない。ホメるたんびに、なんかもの[#「もの」に傍点]欲しそうで、自分がミジメになってくる。
しかし、世の中には平気で他人の女房をホメる奴がいる。それも、亭主の目の前でホメたりするのである。
よっぽど、
「そんなに欲しけりゃ、呉れてやろうか」
と言おう——とも思うが、そんなこと、口に出したら大変だ。人間、腹で思ったことは、あまり口に出さないほうがいい。
「人の女房と枯れ木の枝ぶり」
ということわざは、
「人の女房と枯れ木の枝ぶりは、あれこれ批評してもはじまらない」
といった意味である。ものごとには、とやかく言うべきでないものもある。
女房がいい女房か、悪い女房か——は、亭主でなければわからないことだろう。それに、枝ぶりがよくても悪くても、枯れ木では直しようがない。