妻に、
「なぜ私と結婚したんですか?」
と訊かれて、
「あのころは、娯楽がなかったからなあ」
と答えた夫がいる。女優の中村メイコさんのダンナで、音楽家の神津善行さんである。
さて、そういうことなら、
「なぜ、そうやって夫婦ゲンカばかりしているのか?」
と訊かれたときに、
「なにしろ、娯楽がないもんですから」
と答えるのは、どうだろう? 夫婦ゲンカもまた、娯楽のうちである。
正直な話、そういうふうに考えたら、ずいぶん気がラクになるのではないか。どうせ娯楽なんだから、陰にこもるのは禁物である。精々派手にやってもらいたい。
「ヒマだなあ」
「ヒマねえ」
「ひとつヒマ潰しに夫婦ゲンカでもやるか」
「やりましょう、やりましょう」
なんだかバカらしくって、仲裁に入る気にもなれない。いっそ犬の餌にしてしまいたいくらいだが、犬だってアテられて、食べるかどうか。
それはそれとして、夫婦もケンカできるうちが花である。相手と別れたり、相手がボケたり、相手が死んだりしてしまっては、ケンカもできない。