のちに「太公望」と呼ばれた周の姜《きよう》太公は、若いとき、貧しかった。あまりの貧しさに、妻は耐えられず出ていってしまった。
しかし、太公が出世をとげると、妻は戻ってきて復縁を迫った。そんな妻に、壺の水をこぼし、すくわせてみたのが、
「覆水盆に返らず」
という格言の由来だそうな。転じて、
「いちどしてしまったことは、取り返しがつかない」
といった意味になるが、もともとは離婚した夫婦の間柄について言われた言葉なのである。太公にしても、妻の虫のよさが許せなかったにちがいない。
「辞表を懐に」
という。サラリーマンがカッコをつけて、
「いつでもやめてやる」
といったポーズをとってみせることである。
言っちゃナンだが、辞表ばかりは何枚懐に入れておいても構わないけれど、めったなことでは取り出したりしないように。うっかり上役の机に叩きつけると、
「そうか。ちょうどよかった」
と言われて、そのまま受理されてしまうこともあるからだ。
英語にも、
「こぼれたミルクの上で泣いてもはじまらない」
という言い方がある。それこそ受理された辞表を前に泣いてもはじまるまい。