「寄らば斬るぞ」
と言うのを聞いて、
「ひゃあ、スゴい殺し文句!」
と叫んだ女性がいた。が、これ、斬られるほうからすれば、スゴい殺され文句だ。
「踏んだり蹴ったり」
という言葉は、たとえば『岩波国語辞典』などを引くと、
「つづけざまにひどい目にあうさま」
といったふうに出ている。ホント、こいつが、わたしにはわからない。
言っちゃナンだが、ひどい目にあうんなら、ホントは「踏んだり蹴ったり」じゃなくて「踏まれたり蹴られたり」と言うべきではなかろうか。
殺し文句の最たるものに、
「いつまで他人でいるの? つまんないわ」
というのがある——と書いていたのは、たしか劇作家の宇野信夫さんだった。女に言われて、宇野さんのお友達は、その晩から深い仲になったらしい。
深い仲になったために、さんざん揉《も》めて、やっとのことで女房と別れたら、彼女、
「他人さまのものでない男なんて、あたし、興味がない」
というので、さっさと去っていっちゃった——ナンテことは、よくあることだ。こういうのも、やっぱり「踏まれたり蹴られたり」というんだろうか。