「毛づくろい談話」
という言葉を知った。デズモンド・モリスの名著『裸のサル』(日高敏隆訳、河出書房新社刊)に出てくる。
毛づくろいとは、いわゆる�サルがノミをとってやっている状態�のことだ。あれ、べつにノミをとってやっているわけではなくて、ああやって親愛の情を示しているらしい。
そのことから、モリスは�社交的な場で交わされる、意味のない、愛想のよいおしゃべり�を「毛づくろい談話」と名づけた。たとえば「いいお天気ですね」とか「最近は何かおもしろい本を読みましたか」という類いの挨拶がそれである。
そういえば、わたしの新聞記者時代にも、酔っては無闇矢鱈に女のひとに「結婚しよう」と言ってはベッドの中で毛づくろいしている先輩がいた。いつだったか、女房と飲んでいるうちに酔っぱらって「結婚しよう」と言っちゃったこともあるそうだ。
なにしろ、マメである。その相手も、老若はもちろん美醜を問わず、要するに「女でありさえすれば……」という感じだった。
いまにして思えば、ああいうのを、
「下手な鉄砲も数うちゃ当たる」
と言うのだろう。けっこうモテていたみたいだから、アホらしい。
彼に言わせると、けっしてまぐれ[#「まぐれ」に傍点]ではないそうな。あくまでも熱意の賜物だそうだ。