ある作家の、ある推理小説は、いつのまにか、娘と母が入れ替わっている話である。探偵役は、その女性を背負うのだから、入れ替わっていることに気づきそうなものだが、気づかない。
ちかごろは、娘と母が仲のよいことを「きょうだいのように仲がよい」と形容するんだそうだ。なんだか、親子よりも兄弟、姉妹のほうが仲がよいみたいで、ヘンな感じである。
これは、おそらくは「少しでも若く見られたい」という母親の気持ちを慮《おもんばか》ってのことだろう。ときに、娘より母親のほうが若造りだったりする。
妻にしよう、あるいは息子の嫁にしよう——ということで、その娘さんがどんな娘さんであるかを知りたかったら、
「娘見るより母を見よ」
ということわざではないが、本人を見るよりも、母親のほうを観察したほうがよい。それこそ、
「母親の顔かたちが何年か先の娘さんの顔かたちだ」
ということもあるけれど、
「母親の人柄のよしあしが、そのまま娘さんの人柄のよしあしだ」
ということもあるのである。
それにしても、娘さんの母親があんまり若造りだと、花ムコ候補のほうも、娘さんより母親に惹かれてしまったりして……。