冗談に、
「無理が通れば道路ひっこむ」
と言ったことがある。せっかくの都市計画が住民のエゴで潰れてしまったときのことだ。
「無理が通れば道理ひっこむ」
ということわざは、
「理に合わぬことが世に行われるときは、道理に叶ったことは行われなくなる」
といった意味である。だから、難を避けるためには「たとえ道理に叶ったことであっても、ひっこんでいたほうがいい」というふうに解釈することもできる。
東京都知事時代の美濃部亮吉さんは「対話知事」といわれたくらい、住民との対話が好きだった。都市計画を推進するについても、
「一人でも反対する者がいれば、川に橋をかけるべきではない」
という誰かの言葉を引用して、住民の説得につとめた。
おかげで、首都・東京の都市計画は大幅に遅れ、どうにもならなくなってしまったけれど、それは、たぶん美濃部さんの罪ではあるまい。説得に応じなかった住民が悪いのだろう。
ただ「一人でも反対する者がいれば、川に橋をかけるべきではない」という言葉には続きがあって、それは「その代わり、みんなで濡れて渡ろう」というのである。でも、住民を説得するにあたって、美濃部さんは、なぜかこの後半は一度も口にしたことがない。