蒔《ま》かぬタネは生えないが、蒔いたタネなら生えてから実がなるまで、桃と栗は三年、柿は八年かかる。ヨソに産ませた子が二十年たって「お父さん」と言ってくることもある。
「桃と栗が三年で柿が八年なら、柚《ゆず》は何年か?」
というと、これがマチマチだ。所によっては、この「桃栗三年柿八年」につづけて、
「柚は九年」
「柚は遅くて十三年」
「柚のばかめは十八年」
と言ったりする。
ついでに「梅は? 枇杷は?」というと、やはり「桃栗三年柿八年」につづけて、
「梅は酸いとて十三年」
「梅は酸い酸い十三年」
と言ったり、
「枇杷は九年でなりかねる」
「枇杷は九年で登りかね、梅は酸い酸い十三年」
と言ったりする。いずれも、経験からの知識にちがいない。
されば、
「モモ尻三年膝八年」
と言ったのは、小説家の吉行淳之介さんだ。
酒場で女性に触ってイヤがられないようになるには「それだけの年季が要る」という意味である。これまた、経験からの知識か?
さて、そんなわけで、
「桃栗三年後家一年」
いまは、一年もつかなあ。