「赤信号、みんなで渡ればコワくない」
というセリフが、そんなに好きじゃない。なんだか衆をたのんでいるようで、潔い感じがしないのである。
どうせ無理をするなら、みんなを誘わないで、自分ひとりでやってみたい。その結果、クルマにはねられたら、それはそれで仕方がないことではあるまいか。
しかし、ホンネを言えば、ひとりで赤信号を渡っていても、クルマのほうで停《と》まってくれるような社会こそ望ましい。それが、ホントの歩行者優先だろう。
ところが、現実には歩道と車道の区別もない道路をクルマのほうがわがもの顔に走っていて、ひとりで信号のないところを横切ろうものなら、通りすがりのクルマの鬼みたいな運転手に「バカヤロウ」と怒鳴られる。
それで、腹いせに、
「赤信号、みんなで渡ればコワくない」
といったセリフが生まれたのだろうが、どう考えても、いじましい。
ことわざにも、
「渡る世間に鬼はない」
というくらいのものだ。せめて信号のないところを渡るときぐらいは「鬼はない」といった気分で渡りたい。
なに、このクルマ社会に、そんなの、無理だって?
あーあ、渡る世間は鬼ばかり。