旅行業者たちは、
「ジャマイカ野郎」
と呼んで、陰で舌を出しているそうな。新婚旅行に海外へ出かけたものの、ただもうキョロキョロするばかりで、
「どうすんの!」
細君におっきな声で責められ、
「じゃあ、まあ、いいか」
と、渋々従う男性のことである。
当節、新郎と新婦じゃ、新婦のほうが海外旅行に慣れている。なかには、仕事上のつきあい酒やクルマのローンに追われて、
「海外旅行は、このハネムーンが初めて」
という新郎もいるだろう。
それで、新婦に鼻づら引きまわされ、オタオタしているうち、
「ホントにもう、グズなんだから……」
とかナンとか言われて、
「じゃあ、まあ、いいか」
と、こうなってしまう。
ひどいのになると、そのショックで寝込んじゃって、旅先で病気になる新郎もいるらしい。新婦相手に神経すりへらし、あまつさえ夜の営みのほうもうまくいかなくなって、
「あなたって、ダメねえ」
面と向かって罵倒されたりする。
そんなこと言われりゃ、ますますダメになるのは、わかりきっている。新婦も、そのへんのことは承知で言っているのかどうか、ここはひとつ、新婦自身に聞いてみたいところだが、ひょっとしたらひょっとして、
「ホントは、そうなのよォ」
といった答えが返ってこないとも限らないから、やはり、見合わせておこう。ホントに、そんなこと言われたら、オレなんざ、立つものも立たなくなる。
それで思い出すのは、あの放送作家の永六輔さんだ。永さんは奥さんの昌子さんと結婚するにあたって、
「仕方がない。結婚式と披露宴にだけは、ボクも出席するが、新婚旅行に一緒に行くのだけはカンベンしてくれー」
と言ったそうな。その結果、昌子さんだけが、ひとりして新婚旅行に出かけたそうだけれど、これもまた、一つの方法かも知れぬ。
正直なことを言って、新婚旅行に一緒に出かけさえしなければ、新婚旅行中に夫婦ゲンカをするナンテことはない。どうしても新婚旅行中に夫婦ゲンカをしたくなかったら、マジメな話、新婚旅行を取りやめるよう忠告する。もっとも、結婚そのものをやめてしまえば、夫婦ゲンカなんかしたくったって、できないけれど……。
いつだったか、毎日新聞の家庭面に、
「そんなときは、新婚旅行って、ケンカしにくるようなもんじゃないんですか? と言ってあげると、フシギに仲直りする」
というツアーコンダクターの談話が載っていた。ホント、ホント、結婚なんて、夫婦ゲンカをやるために、するようなものだもんね。ホント、夫婦ゲンカばかりは、結婚しなけりゃ、できない。