「おや? あなたも……」
若い友人の結婚披露宴に呼ばれた帰り、ボンヤリと窓の外を眺めながら新幹線の発車を待っていたら、慌しく隣の席に乗り込んできた男に、いきなり声をかけられた。みれば、モーニングに身を固めた一見紳士ふうで、
「ヨッコラショ」
手にした大きな引き出物の袋を網棚に上げると、
「……披露宴の帰りですか」
そう言って、腰を下ろした。
「ハァ」
黙っているのも失礼だし、関わりあうのも面倒なので、ついどっちつかずの返事をしたところ、
「くみし易し」
とみたのか、
「厄介なもんですなあ」
委細かまわず話しかけてくる。しかも、主語を省いての話だから、
「なにが?」
なんだか、こっちが先を促すような形になった。
すると、
「引き出物ですよ、引き出物」
網棚のほうにアゴをしゃくって、
「ホント、こんなに嵩張《かさば》るとは思わなかった」
そう笑ってから、
「いやあ、女房には�ヘンなセトモノかなんかだったら、構わないから棄ててきてください�って言われたんですが、ねぇ、こんなもの、途中で開けるわけにもいきませんし……」
たぶんこっちの顔色が変わったことにも気がつかなかったろう、これみよがしの溜め息をついた。
言っちゃナンだが、イヤーな感じだ。
たしかに、結婚披露宴の引き出物というやつ、持ちにくく、嵩張っていて、おまけに派手派手しい。正直な話、持ち歩くのが気恥ずかしく、
「もうちょっと何とかならないものか」
と言いたくなるようなシロモノが多いにはちがいないが、こんなふうにハッキリと、
「女房には�棄ててきてください�って言われたんですが……」
と言われると、
「うるせえやい」
と、タンカの一つも切りたくなり、そいつを抑えるのに苦労した。ナマイキを言わせてもらえば、
「そんなことを亭主に言うカミさんもカミさんなら、そんなことを女房から聞いてくる亭主野郎も亭主野郎だなあ」
といった気持ちである。
それにしても、この男、わたしが出席した結婚披露宴の客じゃなくてよかった。新幹線で隣合わせただけでもイヤなのに、披露宴で同席した日にゃ、気の毒で新郎新婦の顔もロクにみられなかったろう。
「だからこそ、引き出物を選ぶには気をつけなさいよ」
胸の内で新郎新婦に忠告するとともに、わたしは、呟いていた。
「そう、客を選ぶのも……ね」