ひょいと目をあけたら、それこそ鼻先で、女の腰にまわされた男の手がモソモソと動いている。東京は新橋での仕事の帰り、偶々《たまたま》坐れた横須賀線でウツラウツラしていたときのことだ。
みれば、若いカップルである。女の背後に男が立ち、左手で吊り革を掴みながら、右手で女を抱えるようにしている。暑いのに、おアツいことだ。
腰にまわされた男の手の動きに従って、女が体をくねらせる。そのうち、頭をのけぞらせ、男のアゴのあたりをチロチロと舐めはじめた。
「いい加減にしないか」
怒鳴りたくなるのを抑えるだけでくたびれた。ちかごろ、時も所もわきまえず、こんなふうにイチャついている男女が増えてきたみたいだ。
男はバカだから、欲情にかられれば、恥も外聞も忘れよう。わたしも男なので、そのことを責める気にはなれない。しかし、女のひとがそっと外せば、それで済むことなのである。それが、それくらいのこともできずに、こんな男に同調するなんて……。
このひと、どうせ捨てられる。