モノ書きの友人に、
「電話が鳴ったら、自分が必ず受話器を取る」
という男がいる。そばに細君がいても、ぜったいに触らせないんだそうだ。
訊けば、
「かかってくる電話は、仕事の話にしろ、遊びの誘いにしろ、ぜんぶ自分あてのものだから」
というのである。いったん細君が出て、
「ハイ、××ですが……」
と名乗り、
「それから取り次いでいた日にゃ、時間がかかってしようがないだろ?」
ということだ。
言われて、
「ナルホド、理屈だなあ」
と感心しながら、首をかしげた。言っちゃナンだが、いまどき「かかってくる電話はすべて自分あてのもので、細君に電話がかかってくるはずがない」と思い込んでいられる男の存在が信じられなかったからだ。
ついでに言えば、彼のところは夫婦ふたりっきりで、子供がいない。ホント、子供が一人でもいたら、
「かかってくる電話は、ぜんぶ自分あてのものだ」
ナンテ、悠長なことは言っていられないだろう。
わが家では、女房や子供に、
「電話がかかってきて相手が名乗ったら、その名を復唱するように」
と言い聞かせてある。そうすれば、相手によっては居留守を使うこともできるし、自分が出るときには応対の心構えだってできている。
しかし、ホントのことを言えば、それが守られたことは、ほとんどない。女房や子供は、電話が自分にかかってきたものではないことを知ると、さもつまらなそうに受話器を黙ってわたしに差し出すだけだ。