このあいだ、機会があって仲間と昼食を共にした。昼食といったって、ま、お弁当である。
そのとき、一人がテーブルにこぼしたゴ飯粒を拾いながら、
「まあ、なんだね。トシィとってくると、どうしたってだらしがなくなる。たとえば、忘れ物をする。飯を食っていても、こうやってこぼす」
と言うから、思わず噴き出しそうになった。
「うんうん」
みんなが頷くと、彼、
「ちかごろ、なにがイヤって、これを女房に指摘されることくらい、イヤなことはないね。女房のやつ、オレが飯でもこぼそうものなら、それこそ鬼の首でもとったように�ホントに、あなたはだらしがないんだから�と顔をしかめる」
と呟いてから、
「トシィとってだらしがなくなったことは、このオレにだってわかっているんだ。飯ィこぼすたんびに�ああ、オレもだらしがなくなったなあ�と思う。じつにもう情けない気持ちでいっぱいだよ。それなのに、女房のやつ、駄目を押すように�ホントに、あなたはだらしがないんだから�と言いやがる。ちかごろ、あれがいちばんイヤだねぇ」
と言い出したのである。
とたんに、みんな、シュンとなった。言っちゃナンだが、みなさん、それぞれ思い当たるフシがあるみたいだった。
そこで、
「どうだろう?」
と、わたしが提案した。正直な話、ここらで誰かが何か言わなきゃ気が滅入っちゃってしょうがない。
「だからサ、そういうときは、女房に言われる前に、自分のほうから�あ〜あ、またこぼしちゃった。オレもトシとったなあ�と言っちゃうんだ。そうすれば、女房だって�イイエ、あなた、そんなことはないわよ�と言ってくれないかね?」
とたんに、
「言ってくれないなあ」
みんなが異口同音に叫んだのには、笑っちゃった。わたくし思うに、これだから、日本の亭主はダメなのである。
俗に、
「ああ言えば、こう言う」
と言う。亭主がああ言うと、女房はこう言うのである。横暴な亭主に鍛えられてきた女房としては、そうせざるをえない。もとを糾《ただ》せば、亭主がそういうふうに仕向けて、楽しんでいた面もある。
ところが、トシをとってそれ[#「それ」に傍点]がメンドくさくなっているのに、女房は相変わらずだ。
いや、わかっていて、突っかかってくるようなところもある。
男が�老い�を感じるのは、こういうときである。
女性のみなさん、どうですか?