朝日カルチャーセンター・横浜で、文章講座「コラム作法」を担当している。四十人ちかい受講生の約半数が、いわゆる中・高年以上の人たちである。
そのほとんどは女性だが、なかには定年で会社をやめ�第二の人生�を歩もうとしている男性もいる。そういう男性は、土曜日の夜の講座なのに、いつもキチンと背広にネクタイ姿であらわれるから、すぐわかる。
いつだったか、教室で中学時代の恩師の話をしたら、いちばん前にいた受講生が、
「あ、そいつはオレの海軍のときの部下だ」
と大きな声を出したのには、ビックリした。奇遇を喜ぶより、それからの講座がやりにくくて困った。
週刊誌などは、
「カルチャー族」
とかナンとか称してカルチャーセンターの受講生たちをからかうけれど、すくなくともわたしの教室に通ってくる女性たちはマジメである。多くは戦争で夫や婚約者を失い、あるいは婚期を逸して、戦後は一家の柱となって働き、弟や妹たちを結婚させ、両親の野辺送りを済ませて、
「ふっと気がついたら、四十年たっていたんです」
と笑う人たちだ。
その人たちが、
「いま、こうして誰にも気兼ねなく勉強できるんですもの。ありがたいわ」
と、おっしゃってくださるのである。講師たるもの、意気に感ぜざるをえない。
おもしろいことに、定年後の男性たちは、カルチャーセンターだけでなく、スーパーに買い物に行くのにも、やはり、背広にネクタイ姿だそうだ。講師のほうは仕事だから、背広とネクタイで固めることもあるけれど、彼らに向かって、
「まず背広とネクタイを脱ぎ捨てなさい」
ということから、いつも講座は始まるのである。