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男のためいき女の寝息59

时间: 2020-02-07    进入日语论坛
核心提示:眼が近い代わりに医師に、「名前は?」と訊かれたから、「青木です」と答えた。いまにして思えば、あれが聴力のテストだった。新
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眼が近い代わりに

医師に、
「名前は?」
と訊かれたから、
「青木です」
と答えた。いまにして思えば、あれが聴力のテストだった。
——新聞社の入社試験を受けたときのことである。筆記、面接は、まあ、なんとかなったけれど、
「身体検査でハネられるかも知れない」
という懸念は残っていた。
自慢じゃないが、わたくし、難聴なのである。ちいさいときに患《わずら》った中耳炎がもとで、鼓膜に大きな穴があいている。
ふざけて、
「眼が近い代わりに、耳が遠い」
と言ったこともある。近視で難聴で、当人としてはとてもふざけられるような心境ではなかったが……。
それにしても、
「新聞記者になるには、耳が悪くてはダメだ」
と言われたら、新聞記者になるのは諦めるつもりでいた。新聞社は、たまたま受けただけのことだ。
それが、ズサンな身体検査のおかげで合格しちゃったのだから、
「儲かった!」
という感じだった。新聞記者になるためのことは、新聞社に入ってから習いはじめた。
警察署まわりの時代には、殺人事件があると、捜査本部の発表をいちばん前で聞くので、いつのまにか警視庁の捜査一課長に顔を覚えられ、
「熱心な奴だ」
と、可愛がられた。捜査一課長にしてみても、まさか目の前の若い記者が難聴でいちばん前にいるとは思いもよらなかったろう。
まったく聞こえない——というわけではない。聞こえることは、聞こえるのである。ただ、相手に小さな声で話されると、
「ハァ?」
と訊き返すことになる。これが、われながら辛く、イヤだった。
ふだんの会話でもそうだけれど、取材のときに、いちいち「ハァ?」と訊き返していた日には、取材されるほうだって疲れるし、興が殺《そ》がれてしまうだろう。マゴマゴすると、嫌われかねない。
しかし、言いたくないことを言うとき、人は、どうしたって小声になる。そして、ときには相手が言いたくないことを訊き出すのも、新聞記者には、だいじな仕事だ。
いや、新聞記者だけではない。のちに、わたしはインタビュアーを開業するが、インタビュアーにとっても、相手が言いたくないことを言わせるのは、大切なことだろう。
それは、ともかく——
「耳が遠い」
というハンデのために、このわたしは、内緒話ができない人間になってしまった。どんなに酔っても、誰かの耳もとで、
「好きだよ」
と囁くこともできないし、
「好きよ」
と囁かれても、とっさに返事ができないでいる。ホント、困ったことだ。
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