まちがっても、
「幸せになろうね」
といって口説《くど》いた覚えはない。幸せになれるかどうか、自信がなかったからだ。
口説いたとしたら、
「毎朝、きみが作った味噌汁を飲みたい」
とかナンとか言ったんじゃなかろうか? 二十五年以上も前のことである。
それが、いつのまにか、朝食はパンになっていて、コーヒーは自分でいれている。トシをとってきたせいもあって、ちかごろ、無性に朝は味噌汁であったかい[#「あったかい」に傍点]飯が食いたい。
女房に、
「朝ぐらいは、飯を食わせろ」
と言うのだが、なかなか叶《かな》えてもらえない。これでは、なんのために結婚したのか、わからなくなってきた。
そこで文句を言うと、
「メンドクサイ」
という返事であった。亭主も稼ぎが悪いと、飯も食わせてもらえず、ミジメなもんだ。
ホント、こんなときに、
「朝ご飯なら、あたしのところで」
と言う女性が現れたら——と考えないでもないが、ま、そんな女性は現れっこないだろう。かりに現れたところで、すぐにまた、
「朝はパンにコーヒー」
ということになってしまうのではなかろうか?
しかし、こんなふうに考えてくると、わたしの文句などは、女房を取り替えるだけで大部分は解決してしまいそうだし、女房を取り替えたところでほとんど解決しそうにもないし、じつを言えば、そこのところに、
「文句あり!」
と叫びたい気持ちなのだ。
なに? 誰に向かって叫ぶのか——って?
頼むから、いちいち、そんなこと、このオレに言わせないでくれ!